『炊きたて♪』が食卓に届くまで。メロディから始まる幸せな団らん

「タイガー、炊飯ジャー、炊・き・た・て♪」。文字を読んだだけでも、あのメロディを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。タイガー魔法瓶の一部の炊飯器では、長年テレビCMなどで親しまれてきたサウンドロゴが、炊きあがりを知らせる音として流れます。
そこには、原曲の記憶を守る工夫、炊飯器から美しく響かせる技術、そして食事の時間を少しでも心地よくしたいという開発者の想いが詰まっていました。
今回は、音響制御を担うマイコンの開発を担当する飯塚(めしづか)に、炊飯器の「音」に込めたこだわりを聞きました。
目次
半世紀以上親しまれてきた「炊きたて」のメロディ

皆さんご存知のあのメロディは、1971年電子ジャー「炊きたて」の発売とともに、その翌年の1972年にテレビCMなどで使われてきたと聞いています。作曲家の方にオリジナルで作っていただいたものだそうです。
炊飯器に初めて搭載されたのは2016年で、当時の土鍋圧力IHジャー炊飯器〈THE炊きたて〉「JPX」という商品です。この年はタイガーの土鍋炊飯器の開発が10年目を迎えた節目であり、お客様へ“温かいこと”を届けたいという思いが社内で高まっていました。社内ではちょうど「感性価値」をテーマに、炊飯器に限らず電気ケトルなど他機種についても「音」のあり方を深く追求していた時期でもありました。
毎日の食事は、味はもちろん、食卓の空気感も楽しみたいものですよね。それなのに、ごはんが炊けた合図が無機質な「ピー」という電子音なのは、どこか味気ないと感じていました。単なる作業完了の通知ではなく、「家族の団らんの合図」のように感じていただけたらと考えたのです。ちょうどその頃、炊飯器の音声の研究をしていたこともあり、私が「炊きあがりの音をメロディにしてはどうか」と提案しました。
候補に挙がったのは、短い「タイガー」というサウンドと、実際に採用されている「炊きたて」のメロディです。議論の結果、CMを通して多くの人の記憶に残りやすい「炊きたて」に決定しました。
メロディの搭載は、まずは作曲者の方の許諾をもらいにいくところからスタートしました。楽譜をいただき、5種類の音源を作りました。原曲の印象を変えないよう、音の高さとテンポは忠実に守っています。現在採用されているのは、そのうち2種類。よりゴージャスなものなど、まだ表に出ていないものもあるんですよ。
心地よさも違和感もしっかり伝える、緻密な技術

炊きあがりにメロディを鳴らす方針は決まりましたが、炊飯器はオーディオ機器ではないため、一般的なスピーカーのように心地よい音を出せるわけではありません。また、炊きあがり時には、内部に温かいごはんが入っていることも前提になります。
本体の大きさや外枠に使われている樹脂の硬さ、内部構造によって、低音が出すぎたり高音が聞こえにくくなったりしますし、スピーカーをどこに配置するかで響きは大きく変わります。現行モデルのJRT-Aでは本体前側に配置し、テーブルへの反射も利用して音が広がるように設計しています。

音を鳴らすという意味では、炊きあがりだけでなく異常を知らせる機能も重要です。エラー音には「操作ミス」と「緊急性の高い異常」の2種類がありますが、操作ミスには“機械に責められている”と感じないよう、強すぎないやわらかい音を採用しています。
一方、内釜の入れ忘れなどの重大な異常を知らせる音については、しっかりと緊張感を持たせています。買い替えても同じ意味だと気づけるよう、すべての製品で音を統一しています。
さらに、クリアな音を鳴らすには、音源だけでなくハードウェアの設計も欠かせません。炊飯器の内部には、加熱を担う部品や基板、配線が限られた空間に収められています。音を出す配線をできるだけ短くする、線の太さを適切に設計するといった細かな工夫を重ね、電気的なノイズの影響を抑えています。
開発当初は「そこまでやる必要があるのか」と言われることもありましたが、「五感に響くモノづくりをしようじゃないか」と呼びかけ、社内の技術者を巻き込んでいきました。当時展開していたGRAND X(グランエックス)シリーズは、「五感に響きわたる、おいしさと上質感を。」をテーマにしていたため、ごはんの炊きあがりの味や香りだけでなく、耳から入る音も大事だと次第に賛同者も多く得られるように。
暮らしのシーンや気分に合わせて選べる、8種類の音

日々の暮らしの中では、時に家電から出る音を抑えたいという場面もあります。例えば、赤ちゃんが寝ている時や、予約炊飯して早朝に炊きあがる際などです。音を完全に消すことはできませんが、音量を小さくする設定は以前から用意しています。
また、音の種類にも選択肢があります。従来の炊飯器に慣れた人が違和感なく使える「シンプル」、軽快で爽やかな気持ちを演出する「クラリティ」、少し贅沢な気分を味わえる「リッチ」、そして「炊きたてメロディ」です。現行の土鍋圧力IHジャー炊飯器ではそれぞれ音声ガイダンスあり、なしの2種類ずつ、計8種類から選ぶことができます。
以前のモデルに比べて、設定の切り替えもしやすくなりました。タッチパネルを4回ほど押す操作で簡単に変更することができます。私も普段は「炊きたてメロディ」にしていますが、ときどき「クラリティ」に変えて、朝に聞く音を変えてみることがあります。
♪炊きたてメロディ
一人ひとりの食卓に寄り添う「幸せな団らん」の合図

開発チームのメンバーとは、よく「団らんって何だろうね」という話をしています。少し前まで、団らんというと「家族で食卓を囲むひと時」というイメージでしたが、それだけではないかもしれないなと気づきました。一人暮らしの方が、「炊きたて」のメロディを聞いてほっとするというワンシーンも、幸せな団らんのひとつだと思います。
お客様アンケートでは「いつもこのメロディを聞くのが楽しみ」「開発した方の優しさを感じます」といったお声をいただいており、嬉しい限りです。ただごはんが炊けたことを知らせるだけでなく、「食卓をより楽しく、豊かなものにしたい」という私たちの想いが伝わっていると感じられ、このメロディーを選んで本当に良かったと思っています。
毎日使う道具だからこそ、もっと製品に愛着を持ってもらいたい——。そんなマイコンチームの音へのこだわりは、間違いなく今日のだれかのごはんの始まりを告げ、全国の食卓の温かさへとつながっています。
音の種類をいくつかご用意していますので、ぜひその日の気分や暮らしのシーンに合わせて、お気に入りの音を選びながら楽しんでいただけたら嬉しいです。

プロフィール
飯塚 優司 / めしづか ゆうじ
タイガー魔法瓶株式会社 商品開発グループ マイコンチーム