【魔法瓶が進化!?】巨大コンテナから未来のスマホ通信まで支える挑戦

最近、ネットショッピングで冷たい食べ物や冷蔵指定の日用品を買う機会も増えましたよね。真夏の暑い日でも荷物がきちんとひんやり届く裏側には、実は物流現場の計り知れない苦労があります。
そんな物流の現場で今、タイガーの技術が大きな注目を集めているのをご存じでしょうか。 タイガーの真空断熱技術が、「薄くて平らなステンレスパネル」へと進化し、巨大なコンテナの保冷や物流改革を支えているんです。その名も「TIVIP(ティビップ)」。
今回は、真空断熱パネルプロジェクトを率いる、R&Dマーケティンググループ統括マネージャーの南村に、開発の知られざる苦労と未来への挑戦を聞きました。
目次
魔法瓶が平らになった!?物流を支える「TIVIP」

実は、「魔法瓶の技術で四角い箱や平らなパネルを作れないか?」というご要望は、以前からお客様や事業者様から数多くいただいていました。
水筒がなぜ丸い形をしているかご存じでしょうか。二重構造の内部を真空にすると、真空空間と外部との圧力差によって真空空間に向かって強い内向きの圧力がかかります。その圧力に耐えて構造強度を維持するためには、変形に最も強い「丸い筒型」にする必要があったのです。
そこでTIVIPでは、パネルの内部に「芯材」を挟み込むことで、フラットな板状でも形状が成り立つようになっています。しかし、本当の困難はその先にありました。
一番苦労したのは、ステンレスの薄さと溶接作業でした。
水筒に使われるステンレス板の厚さは0.3〜0.5mmほどですが、TIVIPで使用するのはその1/10の厚みのわずか0.05mm(髪の毛ほどの薄さ)の超極薄ステンレス箔です。物流現場で使うために極限まで軽量化を目指したのですが、あまりにも薄いため、溶接の熱が少し不安定になるだけで一瞬で穴が開いてしまいます。
社内外から「ステンレス製のボトルを作っているのだからすぐできるだろう」と思われがちだったのですが、既存のボトル用設備は一切使えません。設備も技術も完全にゼロからの新規開発でしたので、数多くの失敗を繰り返しながら、5年かけて独自の加工技術を開発してきました。
こうした苦労の末に完成したTIVIPは、従来のグラスウールや発泡ウレタンなどの断熱材と比べて約10〜20倍という圧倒的な断熱性能を発揮し、さらには長寿命をかなえる新たな「真空断熱パネル」となったのです。
夏のコンテナを冷やし続ける「45.9%削減」

このTIVIPを使って、平均気温32℃という真夏日の過酷な環境下で大型リーファーコンテナの実証実験を行ったところ、冷蔵機の消費電力およびCO2排出量を45.9%も削減(※当社実施の従来品との保冷実証値)可能なことが証明できました。
そして今、物流業界の企業様から特に大きな反響をいただいているのが「混載輸送」での活用です。
TIVIPでつくった保冷ボックスを使えば、1台のトラックで「常温の荷物」と「冷蔵荷物」「冷凍貨物」を同時に運べる(混載できる)ようになります。わざわざ別々の温度帯のトラックを走らせずに済むため、物流業界が直面している「2024年問題」や燃料費の高騰、CO2削減に対して、非常に大きなソリューションを提供できると考えています。
大阪・関西万博の会期中には会場内への冷蔵・冷凍食材輸送で、TIVIPで作った保冷ボックスによる実証が行われました。猛暑の中でも食材が傷む心配が軽減され、配送現場で働く作業員の方々の「焦りや焦燥感」といった作業ストレスを大幅に軽減できたことも、開発者としてうれしく思っています。
また近年は地球温暖化が進み、特に夏場はかつての常温の範疇には収まっておらず、これまでは常温で運べていた品物が傷んだり変形したりするトラブルが増えています。そのようなシーンでもTIVIPでつくった輸送ボックスは活用可能と考えています。
形は変わっても「温度を守る執念」は同じ

世の中のクーラーボックスや冷蔵庫の一部には、すでにVIP断熱材(真空断熱材)が使用されているものがあります。ただ従来のVIP断熱材は、その使用材料と封止方法ゆえに長期寿命という点では少し難しい部分があると考えています。
対してタイガーのTIVIPは、強固な「ステンレス完全密封」です。ステンレス素材と金属溶接による封止で、30年以上の長寿命を見込むことができ、パネル強度的にも荷扱いが激しい物流現場の衝撃にも耐えられるタフさを持っています。
丸い水筒から平らなパネルへと形や用途は変わっても、私たちが100年培ってきた「温度をコントロールする技術」という核心は何も変わりません。
ご家庭の食卓に温かい飲み物を届けるのも、物流の現場で大切な食材の安全を守るのも本質は同じです。「大切なものを最適な温度で守り抜く」という技術者としての執念が、この見えないパネルの内部にぎっしり詰まっています。
物流から、未来の「スマホ通信」の裏側へ!

保冷輸送ボックスでの確かな実績を経て、私たちのTIVIPは今、みなさんの身近な「デジタルインフラ」の領域へと挑戦を広げています。
2026年6月からは、東急グループ様が展開する「鉄道高架下の都市型データセンター実証」へ建築資材としてTIVIPの供給を開始いたしました。2026年11月頃から実際にサーバーを稼働させる本格的な冷却実証を予定しております。
保冷実証実験で使っていたTIVIP搭載リーファーコンテナをご覧になった東急建設様から、「この薄さと高い断熱性能を、データセンターの熱対策に使えないか」とお声がけいただいたのがこのプロジェクトの始まりでした。
みなさんが毎日スマホで動画やSNSをサクサク楽しめている裏側では、膨大な熱を発するサーバー群(データセンター)が休まず動いています。高架下のような限られた特殊な空間でも、薄くて頑丈なTIVIPを使えば、コンテナ内のサーバー実装スペースを潰さずに強力に断熱し、冷却効率を高めることができるのです。

家庭向け(BtoC)製品での私たちのメッセージ「HEAT TO HEART(熱から生まれたものが、人と人とをつなぐ。)」が、一人ひとりの心へ温もりを届けるものだとするなら、法人向け(BtoB)での「HEAT TO HEART」は、地球温暖化や社会課題そのものを解決していく私たちの情熱だと思っています。
みなさんが次にお出かけをして電車の高架下を通ったとき、「あ、足元でタイガーの技術が未来の通信を守る準備をしているのかな」と、ほんの少しだけでも思い出していただけたら嬉しいですね。
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プロフィール
南村 紀史 / みなみむら のりひと
R&Dマーケティンググループ統括マネージャー
タイガー魔法瓶株式会社