炊飯器かんたんレシピ

手前味噌 中川たまさん

新しい年を迎え、寒さが厳しくなってきました。この時期欠かせない家仕事は味噌作り。真冬に仕込んで、来年の秋口に出来上がる味噌は、その年の気候などによって少しずつ味が変わります。今年はどんな年になるのかな?そんな気持ちでせっせと仕込む手前味噌は、まっさらな1月の気持ちに似合う作業です。

一年のうち、もっとも寒さが厳しくなる 一、二月。水仕事がひときわ辛くなる季節ですが、この寒さがあるからこそ作れるのがお味噌。

味噌作りの大敵はなんといってもカビです。でも寒い時期に仕込めば気温が低く、発酵もゆっくりと進みますので、じっくりじっくり熟成させることで、奥深く、おいしい味噌ができるのです。

家で味噌を作るのは大変そうと思われがちですが、作業は意外と単純です。骨が折れるのは茹でた大豆をすり鉢でつぶす作業くらい。

大鍋で茹でた大豆をみんなで手分けして潰す作業はおしゃべりに花が咲く、意外と楽しい時間。

たいていはご近所の友人や料理教室の生徒さんたちと一緒に作業するのですが、ごーり、ごーりとすりこぎを回しながら他愛もないおしゃべりをする時間も楽しいもの。もちろん、フードプロセッサーを使っても大丈夫です。

不思議なことに、毎年同じように作っても、できあがる味噌の風味は毎回違います。その年の気温や気候、家の風通しなど、発酵はちいさな変化に敏感です。

次の秋ごろに出来上がる手前味噌。この夏は蒸し暑かった、秋は雨が多かったな。新しい味噌を口に含むと、その年の季節のめぐりを感じます。

今年はどんな味に仕上がるかな。わくわくしながら待つ時間も味噌作りの大きな楽しみなのです。

過保護すぎてはダメ。子育てのような味噌作り。

大豆はしっかり、均等につぶしましょう。そうでないと発酵にムラが出てしまうから。

気候や発酵場所の条件によって、毎年微妙に 味の変化が起こる手前味噌。

不思議なことに、同じ材料、同じ工程で作っても、作る人が違えば風味が違ってきます。

まるで生き物を扱うような味噌作りですが、実際私は、「味噌作りは子育てみたい」と思います。

たとえば数人で集まって味噌を仕込み、みんなで分けて持ち帰り熟成させるとします。心配性の人は、夏には腐ってはいないか、秋にはカビが生えていないかと、たびたび様子を見てしまいます。

大豆ペーストを加える前に、麹と塩をよく混ぜます。 麹効果で手がすべすべになりますよ。

でも、カビの大敵は空気に触れることですから、あまりの過保護は味噌によい影響を与えません。

味噌の出来上がりを見極めるにあたってもそうで、じっくり、ゆっくり、次の冬まで見守ろうと思っていると、夏の暑さで腐ってしまうことも。

今年は気温が高いなと思ったら、夏頃に一度様子を見て、冷蔵庫に移したほうがいいのです。

子供が成長したと思ったら、寂しいけれど親離れ。ずっとそばに置いていると、いいことはない。ほら、ちょっと子育てに通ずるところがあるでしょう。

同じ時期に、同じように作っても、作る人や育つ家が違えばまったく違う味噌になる。さて、私が育てた味噌はどんなふうに成長するでしょう?そんなことを考えると、つくづく味噌作りって面白いなと思うんです。

手前味噌はこんなふうに。

作りやすい分量

〈材料名〉

  • 大豆 1kg
  • 米麹 1kg
  • 塩(仕込み用) 450g
  • 酒粕(板粕) 適量
  • 塩(仕上げ用) 50g
  • 焼酎(消毒用) 適量

作り方

  1. 大豆は前日に洗い、3倍量の水に浸け、戻しておく。
  2. 大豆をたっぷりの湯で茹でる。ときどきアクを取りながら、指でつまんですぐ潰れるくらいの固さまで火を入れる。
  3. すり鉢かフードプロセッサーで2の大豆を潰し、ペースト状にする。
  4. 3に塩(仕込み用)と米麹を加え、よく混ぜる。
  5. 4を大きめの団子に丸め、焼酎で消毒した容器に詰める。平らにならし、最後に板粕を敷き詰め、ぴったりと密閉して仕上げ用の塩をまんべんなくふる。
  6. 上部に隙間なくラップをし、周りの汚れを綺麗に拭く。重石をのせて風通しのいいところで保存する。

※冬に仕込んだ場合は夏頃にはもう発酵が進んで食べられる状態になります。ふたを開けて味噌の香りがしたら完成。秋から冬まで発酵させるとよりコク深い味噌になります。

手前味噌だからこそ風味を存分に味わって。

季節の野菜を蒸して、味噌ディップのおともに。おつまみにもパーティの前菜にも。

そもそも味噌作りを始めたのは、子供が生まれてからでした。実家では味噌作りをしていたと記憶しているのですが、夫とふたりの頃はそこまでたくさん味噌を使うこともなく、市販品を使っていました。

でも子供が生まれるとお味噌汁を作る回数が増えて。必要な材料がすべて入ったキットを買って挑戦してみたのが最初でした。

それからは毎年、麹や塩の分量を変えたり、保存方法を工夫してみたりと試行錯誤の繰り返し。

かくいう私もはじめは過保護で、カビだらけにしてしまったこともありました。

でも、毎年やるうちにだんだんと我が家に合う配合や保存方法、冷蔵庫に移し替えるタイミングがわかってきて、今は毎年同じやり方が定着しています。手前味噌というのは、こんなふうにしてそれぞれの家庭で味が決まってくるのでしょう。

和風バーニャカウダのような、あと引くおいしさ。香り高い手前味噌が主役です。

使い道は市販の味噌と同じですが、せっかくの手前味噌だからこそ作りたいのは調味料としてではなく、味噌を主役にした料理です。

たとえば我が家の定番は、にんにくの香りをうつしたオリーブオイル、豆乳、味噌を混ぜたディップ。味噌に火を通さない調理法なので、酵素も活かせます。

季節の蒸し野菜につけて食べると、味噌の風味がふわっと香って、とてもおいしい。しょっぱさが先にたたず、深いコクが感じられるのはじっくり熟成させた味噌だからこそ。

なにより、手塩にかけて作ったという感慨が味噌のおいしさをいっそう引き立て、食べるごとに手前味噌への愛着が湧いてくるのです。

料理:中川たま 撮影:野川かさね 文:小林百合子




中川たま
(なかがわたま)

料理家。神奈川県・逗子で夫と高校生の娘と暮らす。自然食品店勤務後、ケータリングユニット「にぎにぎ」を経て独立。伝統を受け継ぎながら今の暮らしに寄り添い、季節のエッセンスを加えた手仕事の提案を行う。最新刊は2018年10月刊行の『デイリーストック 朝、昼、晩 日々の料理の味方』(グラフィック社)。ほか著書多数。