名前は「炊きたて」なのに、最初は「炊けなかった」話

初代「炊きたて」電子ジャー

こんにちは。「タイガー温もり便」編集部です。

突然ですが、みなさんのご自宅にある炊飯器をよく見てみてください。タイガーの炊飯器ならきっとどこかに「炊きたて」というロゴが入っているはず。

「そりゃそうでしょ、タイガーの炊飯器といえば『炊きたて』だもの」
「ごはんを炊く機械なんだから、当たり前じゃない?」

そう思いますよね。私もそう思っていました。 でも、タイガーの100年の歴史を紐解いていたら、思わず「そうなんだ!」と声を上げてしまう意外な事実にぶつかったんです。今日は、そんなちょっと意外な「炊きたて」のルーツと、そこにある「あたたかい」お話をさせてください。

目次

実は初代、「ごはんが炊けなかった」

時計の針を、今から60年ほど前、1960年代に戻しましょう。 当時、ごはんの保温といえば「ガラス製の魔法瓶(ジャー)」を使っていました。

でも、ガラス製には限界があったんです。温度が40度くらいまで下がると、ごはん特有のニオイが出たり、最悪の場合は腐ってしまったり…。

そんな中1970年9月、大阪万博で日本中が沸き立っていたこの年、「これをなんとかしたい」 そんな想いで、タイガーからある画期的な新製品が発売されました。

初代「炊きたて」のポスター

その名も、電子ジャー「炊きたて」。

…お気づきでしょうか? 「炊飯ジャー」ではなく、「電子ジャー」。 そう、記念すべき初代「炊きたて」は、ごはんを炊く機能がない、保温専用の容器だったんです。

「えっ、名前は『炊きたて』なのに?」とツッコミを入れたくなりますね。

今でこそ「炊飯」と「保温」はセットが当たり前ですが、当時はまだ技術的に別々の機能でした。では、なぜ「炊けない」のに「炊きたて」という名前がついたのでしょうか?そこには、当時の切実な食卓の事情がありました。

「冷や飯」を変えた、魔法の箱

昭和の食卓では、ごはんは「朝にまとめて炊く」のが一般的でした。 朝は炊きたてのホカホカが食べられますが、夜になるとおひつに入ったごはんは冷たく硬くなってしまいます。

「お父さんが帰ってくる頃には、ごはんは冷え冷え…」 「冬場は特においしくない…」

そんな悩みが当たり前だった時代。 「仕事で疲れて帰ってきた家族に、湯気の立つあたたかいごはんを食べさせてあげたい」。 当時のお母さんたちのそんな願い、そして「食卓に団らんを広めたい」という炊飯器メーカーの想いから生まれたのが、電気の力でホカホカをキープする「電子ジャー」だったのです。

つまり、「いつでも『炊きたて』のような温かさとおいしさを」という願いを込めて名付けられたのが、このネーミングだったんですね。

実は「周回遅れ」からのスタートでした

「におわない!腐らない!」と画期的だった初代EL型。 しかし、開発陣の顔色は優れませんでした。なぜなら、市場ではすでにライバルメーカーたちが、もっと進んだ「電子(半導体)ジャー」を発売していたからです。

正直に言いますが、タイガーはスタートダッシュで出遅れていました。でも、タイガーにはたった一つ、他社に負けない武器がありました。 それが、ガラスジャー時代から磨き続けてきた「保温断熱技術」です。

「半導体の制御」×「タイガー伝統の断熱技術」。 この2つがガッチリ噛み合い、1971年6月、ついに電子ジャー「炊きたて」ELC型が完成します。初代EL型からわずか9ヶ月後のことでした。この猛烈な巻き返しがなければ、今の「炊きたて」ブランドは存在していなかったかもしれません。

2代目「炊きたて」のカタログ

27万人が欲しかった「花柄」の魔法

このELC型、もうひとつ伝説を残しています。 それは、新聞広告で「モニター1,000名募集」をかけた時のこと。

なんと、全国から27万人もの応募が殺到したのです。 1,000人の枠に、27万人です。当時の人々がいかに「あたたかいごはん」に飢えていたか、そしてこの新しい家電に期待していたかが分かりますね。

受け継がれる「温もり」への執念

「グレーなごはん」を救った、社長夫人の一言

さらに翌年の1972年。今の炊飯器では当たり前の「フッ素加工(こびりつかない加工)」を採用したDFC型が登場します。

3代目「炊きたて」

でも開発中、社内では大揉めでした。 「フッ素加工をすると、内なべがグレー色になる。これじゃあ、ごはんが不味そうに見えるじゃないか!」そんな議論をバッサリ断ち切ったのが、当時の社長夫人、菊池陽子さんでした。

「ごはんがこびりつかない方いい。」

毎日台所に立つ立場としての、このリアルな一言が決定打となり、商品化が決定。結果、お客様からも大絶賛を受け、大ヒットとなりました。この鶴の一声がなければ、私たちは今も、内なべにこびりついたカピカピのごはんと格闘していたかもしれませんね。

その後、1974年にはついに「炊飯」と「保温」がドッキングした「炊飯電子ジャー 炊きたて」が登場します。 ここで名実ともに「炊いて、保温する」今のスタイルが完成しました。

初代炊飯ジャーのカタログ

こうして歴史を知ると、いま私の目の前にある最新の炊飯器も、なんだか違って見えてきます。

ボタン一つでごはんが炊けて、何時間経ってもあたたかい。 私たちが当たり前のように享受しているこの便利さは、 「誰かにあたたかいごはんを食べさせたい」 という、50年以上前から変わらない「愛情」のバトンリレーの上に成り立っているのかもしれません。

今日のごはんは、誰と囲みますか?

技術者の執念、27万人の期待、そして社長夫人の直感。 いま私の目の前にある炊飯器は、たくさんの人の「あたたかいごはんを食べさせたい」というリレーの末に届いたものなんだなぁと思うと、湯気がいつもより愛おしく見えてきます。

忙しい毎日、家族みんなで食卓を囲める日ばかりではないかもしれません。そんな時、炊飯器の保温ランプがポッと灯っているのを見たら、思い出してください。 それはただの機械のランプではなく、「おかえり、あたたかいごはんがあるよ」という、作り手からのメッセージだということを。

そんなことを書いていたらお腹が空いてきたので、ごはんを炊こうかなと思います。もちろん、愛しの「炊きたて」で。

みなさんの今日のごはんも、湯気とともに笑顔があふれるものでありますように。

プロフィール

タイガー温もり便 編集部

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