100年企業・タイガー魔法瓶が描く「幸せな団らん」を紐解く
大切な誰かと笑顔で共有したひととき、ゆったりと流れる自分だけの優雅な時間。あらゆる笑顔や温もりのシーンを100年にわたり支え続けてきたタイガー。そんなタイガーがビジョンとして掲げる「世界中に幸せな団らんを広める。」に込めた想いについて、代表の菊池がお話しします。

目次
「幸せな団らん」で空間そのものをあたためたい

タイガーは今年で創業から103年を迎えました。祖父が創業した当時に、作っていたのはガラスの魔法瓶でした。割れやすい魔法瓶の強度を高めるために外装のケースと中瓶の間に段ボールを詰めるなどして、長く愛される製品を目指して愚直なものづくりに励んでいました。小さな製作所から、事業に対する誰よりも強い想いを持って当社の礎を築いていきました。
父が2代目となってからは、電気を使った製品を手がけるようになりました。製品のバリエーションを増やし、事業を拡大したことが父の大きな功績だと思います。
3代目である私のミッションは、日本だけでなくグローバルな展開を視野に入れて市場を広げることです。国籍や年齢、性別にかかわらずあらゆる方に使っていただき、生活をより便利に、より快適にできるような製品を提供したいと思っています。
「世界中に幸せな団らんを広める。」に込めた想い
「世界中に幸せな団らんを広める。」というビジョンですが、そのルーツは当社の創業期にさかのぼります。創業者である祖父は苦労人で、幼少期から奉公に出ていました。奉公人ですから、食事の順番はいつも最後です。冷え切ったごはんとお味噌汁、お茶しか口にできなかった状況の中、むかし母親が入れてくれたあたたかいお茶に思いを馳せたそうです。その時に感じた「母さんが淹れてくれたような、あの一杯のあたたかいお茶がいつでも飲めたらなあ」という想いが、タイガーの原点なのです。
あたたかいお茶に込められた大切な人の愛情や、心あたたまる安心感といった、温もりのあるアイデアから生まれた商品を世界中に広めていきたい。そんな想いから掲げたビジョンです。
「団らん」は人の心がポジティブな感情で満たされる瞬間
わたしたちの考える「団らん」の定義は広いです。家族と食卓を囲んで談笑している和やかな様子はもちろんのこと、例えばスポーツの途中で、水筒から冷たいドリンクを飲むときや、仕事で疲れた時にコーヒーでほっと一息つくときも、すべてわたしたちの考える「団らん」のシーンです。
一緒にごはんを食べるだけでなく、人の笑顔や温もり、絆といったものを感じられる時間、一人でゆったりとくつろぐ時間といった、人の心がポジティブな感情で満たされる瞬間すべてが「幸せな団らん」なのだと考えます。
私たちにとって、高性能な炊飯器を開発したり、水筒をたくさん販売するといったことは、目的を達成するための手段にすぎません。もちろん、世界一おいしいお米が炊ける炊飯器や、長時間の保温保冷を叶える水筒を目指して日々開発を行っていますが、本当に大切なのはその先の未来です。
炊飯器のふたを開けて湯気が立ち上がる瞬間の「わぁっ」という笑顔、「いつでもあたたかいお茶がそばにある」という安心感、そういった感情を生むことで空間そのものをあたたかいものへ変えていきたいのです。デザインや機能、使い勝手などを考える際にも、「その製品を使うことでお客様の暮らしがどういうふうに豊かになってほしいか」という視点に立つよう心がけています。
製品に関連するサービス

高品質な製品を作って単に売るだけでは、差別化がむずかしい時代になりました。そのため、当社では関連するサービスにも注力しています。
例えば、できるだけ長く愛用していただけるよう、補修用部品の保有期間を10年間と業界の水準より長めに設定したり、ウェブサイトやSNSでレシピを紹介するといった、料理のバリエーションを増やしていただくためのご提案も実施しています。
また、キャンプや災害時など、電気の供給がない環境でもおいしいごはんが炊ける「魔法のかまどごはん」を使ったイベントに不定期で参加しています。各地の子どもたちと一緒にごはんを炊いて食べるという体験を通して、食べ物の大切さや、誰かと一緒に食べる楽しさを伝えています。
お客様の声が企業理念をより強くする
社内では、企業理念を自分ごととして捉えられるように、ビジョンやミッション、バリューの浸透に注力しています。企業理念をより深く理解した社員が創りだす温もりあるアイデアから生まれた製品を通じて、お客様にわたしたちの想いをお伝えしていきたいのです。
われわれとしてはお客様が求める製品やサービスを提供しているつもりですが、「こういう風に使ってほしい」「使ってもらえればわかるだろう」という思い込みが生じてしまう可能性はゼロではありません。
その状態を解消するために、製品アンケートやレビュー、お客様相談室などに寄せられる声を丁寧に読み解き、全部門で共有する仕組みを整えています。これにより、社員一人ひとりが「もっと期待に応えたい」「次はこんな幸せを届けたい」という想いを新たにし、ビジョンが血の通ったものになると考えています。
世界中に「幸せな団らん」を広めるために必要なこと

「団らん」は、長い年月をかけて脈々と受け継がれてきた食文化と密接に関わるため、国や文化の違いにより、さまざまな形があります。例えば、白米を主食としなかったり、大家族で大皿に盛られた料理を囲むといったものです。個々のお皿で静かに食事を楽しむ文化もありますよね。
そのため、「幸せな団らん」を世界に広げるために、まずは一つ一つの食文化を理解しなければなりません。そのうえで、どういった製品やサービスが求められているのか、さらにはその背景にあるライフスタイルや住環境も含めて分析し、カスタマイズする必要があるでしょう。
「4つの約束」をはじめとしたサステナビリティの取り組み
「モノを大切にする心」と「食を大切にする心」は、根っこの部分でつながっています。食卓から始まるサステナビリティをお客様と共に実現していくことも、私たちの大きな責任だと考えています。
当社にとってのサステナビリティは二つのタイプがあります。一つは、メーカーとして提供する商品にまつわるもの。もう一つは事業活動に関連するものです。
前者に関しては、例えば当社が得意とする真空断熱技術によって保温・保冷ができる水筒やポット。これらは電気を使わずに保温や保冷ができるという点で非常に分かりやすい貢献だと思っています。
後者に関しては、水筒の製造における「4つの約束」が代表例です。紛争の資金源になっている鉱物や環境負荷の高いフッ素コートを使わず、自社工場での生産にこだわりマイボトルとしてご利用いただくことで、世界で年間約5,800億本といわれるペットボトルの消費量の削減に寄与しています。先ほどお話した補修用部品の保有期間延長やリファービッシュ製品の販売も、サステナビリティの実現に向けた取り組みの一つです。
100年後も幸せな風景を描き続けるために

昨今のAIやロボティクス技術の進歩は目覚ましいものがあります。単純作業はもちろん、これまで人間にしかできないとされてきたことの大半がAIに置き換わる日も遠くないでしょう。
一方で、AIとの共創が進むにつれ、改めて人間の尊厳やあるべき姿が再認識される時代になるのではないでしょうか。これまでよりさらに、人間らしい責任あるモノづくりや創造力が必要になってくると考えます。
人間らしい真心や気遣いを感じられる製品を届けたい
人と人とのつながりや、親しい人への想いが大切であることは、どんなに技術が進歩しても変わらないはずです。テクノロジーを使いこなしながらも、真心や気遣いを感じられる製品をお届けできるかどうかが差別化のポイントになるのではないかと思います。
タイガーの製品が世界中の食卓にあって、家族の笑顔を生み出している。子どもたちの笑い声が響き、人々があたたかい時間の中で明日への活力を得ている。そんな普遍的で心豊かな「幸せな団らん」の風景を、100年後も描き続けていきたいと思います。
日本から世界へ、そして宇宙へ。あらゆる課題の解決を目指す
皆さまの支えのおかげをもちまして、100年企業の仲間入りをさせていただくことができました。これからも「幸せな団らん」に寄り添い、食卓の真ん中で笑顔を支える存在でありたいという理念や想いは不変ですが、それを達成するための技術は、時代に合わせて進化し続けなければなりません。
蓄冷材や蓄熱材を使用しない保冷輸送器材の開発や、JAXAの小型回収カプセルプロジェクトにおける断熱保冷容器の研究開発など、私たちの事業は日本から世界へ、地球から宇宙へと広がっています。これからはエネルギーや環境に関連する複合的な課題についても、取り組んでいくべき時代だと考えております。
これからも、業界初、世界初といった製品やサービスで、お客様の暮らしに「幸せな団らん」を提供していきたいと思いますので、引き続きご支援頂けますと幸いでございます。

プロフィール
菊池 嘉聡/きくち よしさと
タイガー魔法瓶株式会社 代表取締役社長
甲南大学経営学部を卒業後、タイガー魔法瓶株式会社に入社。海外留学を経て、1997年に取締役、1998年に常務を歴任し、1999年に代表取締役社長に就任。全国魔法瓶工業組合理事長などを歴任。