世界的なサイフォンのプロから見る、Siphonysta(サイフォニスタ)の妥協しないものづくり

タイガー魔法瓶の自動サイフォン式抽出システム「Siphonysta(サイフォニスタ)」の公式アンバサダーとして、THE SYPHONYST 中山氏に2023年9月にご就任いただきました。それを記念してタイガー魔法瓶の企画担当者と開発の秘話から商品の魅力まで深く語り合いました。


対談者プロフィール

和泉 修壮 (写真右): タイガー魔法瓶株式会社 ソリューショングループ コーヒーメーカー企画を担当、サイフォニスタの発案者。

中山 吉伸 (写真左): THE SYPHONIST(ザ・サイフォニスト)代表。Japan Siphonist Championship(JSC)にて3回優勝、World Siphonist Championship(WSC)にて2回準優勝。2023年9月に、サイフォニスタのアンバサダーに就任。


対談動画はこちら:
第一話「サイフォンコーヒーとの出会いと魅力」:https://youtu.be/dD4yxY-I_Vk
第二話「サイフォンコーヒーの仕組みとサイフォニスタの開発秘話」:https://youtu.be/OHdZm5whQxs
第三話「サイフォニスタこだわりポイントと実際に使用した印象」:https://youtu.be/KFMLGJb0dm4
第四話「サイフォニスタで淹れるコーヒー」:https://youtu.be/nN2G39bn1bg

和泉 改めまして、サイフォニスタのアンバサダーにご就任いただきありがとうございます。
今日はアンバサダー就任記念として、サイフォンコーヒーとサイフォニスタについて色々とお話させて頂きたいと思います。ところで、こちらの中山さんのお店、とても素敵な場所ですね。

中山 ありがとうございます。
ここ「彩盆の間」は、名古屋に2023年6月にオープンしたばかりのサイフォン専門店です。 サイフォンで淹れた香り豊かな一杯と、小さな盆栽を手元で愛でながら楽しんでいただける、そんなコンセプトのお店です。

本日の対談場所、サイフォン・コーヒー&ティー・スペース「彩本の間
本日の対談場所 : 「彩盆の間(さいほんのま)」Syphon Cofee & Tea Space

和泉 素敵ですね。中山さんはどのように「サイフォンコーヒー」と出会ったのですか?

中山 コーヒーの世界に入りたての頃、たまたま持っていたサイフォンを手にして、全くの無知だったのですが適当に1杯淹れてみたんです。そしたら、人生観が変わるぐらいびっくりするような、おいしいコーヒーができたんですよ。もしこの美味しさを自分でコントロールできたり、自分が狙った1杯の香りを人に届けることができたら、どれだけ多くの人を幸せにできるだろうと思ったのが、サイフォンの世界に入ったきっかけです。
和泉さんは、どうしてサイフォンのコーヒーメーカーを作ろうと思われたのですか。

和泉 最初のきっかけはサイフォンのマシンを作ろうではなかったんです。偶然入ったお店が「スペシャルティコーヒー※1」の専門店でした。ハンドドリップで淹れてくれるのですが、試しに飲んでみたら、 普段飲んでいるコーヒーとは全く違う味わいに驚いたんです。またこれを飲みたいなと思い、器具を買って自分の家で淹れようとしたのですが、うまく再現できなかったんですね。「どうしておいしく淹れられないのか。スペシャルティコーヒーをおいしく飲むためのマシンを作りたいな」と思ったのが最初のきっかけです。色々調べていくと、スペシャルティコーヒーはカッピング※2で評価されるらしいですね。カッピングはドリップのような透過式ではなく、フレンチプレス※3やサイフォンが代表的な浸漬式の淹れ方です。スペシャルティコーヒーをおいしく淹れるために、この浸漬式のサイフォンを深掘りした新しいマシンを作りたいな、という思いで作りました。

※1 生産国においての栽培管理、収穫、生産処理、選別そして品質管理が適正になされ、定められたカップ評価での判定で基準をクリアした、風味特性も素晴らしいコーヒー
※2 コーヒーの品質を同じ条件下で試飲にて比べて評価する官能評価手法のこと
※3 容器にコーヒー粉とお湯をいれ、一定時間浸けたら金属製のフィルターが付いたふたを押し込んで液体をこしてコーヒーを抽出する器具。

中山 「スペシャルティコーヒー」は今すごく大事なキーワードだと思います。実は、「スペシャルティコーヒー」はどんな方法でも比較的高温で淹れることが多いです。なぜかというと、ポテンシャルが高い豆は、高温で淹れるとフレーバーが豊かになり、品質の高い成分がちゃんと出てきます。豆の品質が良くなってきたこの時代に、サイフォンという高温で淹れるコーヒーに着目されたというのは、すごくいいタイミングだなと僕は思いました。

「コーヒーの香りを飲む」 サイフォンコーヒーの仕組みと魅力

和泉 中山さんにとって、サイフォンの魅力とはなんですか?

中山 サイフォンの見た目の美しさ、動きや演出、その格好良さというのもあると思うんですが、それと同時に「難しそう」とか「どうやって淹れていいかよく分からない」など、みなさん感じると思いますね。でも、僕はそれも含めて魅惑の道具だと思うんです。ハンドドリップよりも手間がかかったり、難しい部分はあるんですけど、それでもサイフォンで淹れる意味があるんですね。それは何かというと、やっぱり「おいしさ」。サイフォンはいろいろなコーヒーの淹れ方がある中で、他とはちょっと違うおいしさを感じさせてくれる。それがサイフォンの一番の魅力だと思っています。

和泉 知らない人がとても多いと思うのですが、サイフォン式抽出方法とは、どのようなものなのでしょうか?

中山 アルコールランプの火で、湯が入ったフラスコを熱し、沸とうした湯が水蒸気になることによって、体積が膨れ上がります。中で空気が膨張すると、膨張力によって湯が下から上に移動して、コーヒーと混ざります。

次に火を止めると、フラスコが冷えて、今度は中の水蒸気が縮みますね。縮んでいくと、フラスコが真空状態なので、上にいたコーヒーがぐっと吸われて、あらかじめ設定したフィルターでろ過され下に落ちていきます。

この下に落ちてきたコーヒーが「サイフォンコーヒー」です。そして、この膨張力と収縮力を使って淹れるのが、コーヒーサイフォンの原理ですね。

このように高温かつ短時間で淹れるサイフォンコーヒーは、香り立ちが良くなり、すごくすっきりとした味わいになります。ですので、僕はよく「コーヒーの香りを飲む」と表現するのですが、その感覚がサイフォンコーヒーの魅力だと思っています。

そんなコーヒーサイフォンの原理と魅力を取り入れているサイフォニスタですが、どのような仕組みか教えていただけますか。

実際に、サイフォニスタでコーヒーを淹れてみた

和泉 原理的には非常に似ている部分があります。日本茶や紅茶のようにお湯に浸けて抽出する浸漬式だったり、水蒸気を使ったり、減圧の仕組みを使うなどもありますけれども、実際に見て実感していただきたいなと思います。

コーヒーは、上下に分かれる透明のシリンダーの中で作ります。下のシリンダーにコーヒーの粉を入れ、上のシリンダーに水を入れます。ふたをしっかりと閉めていただき、マシンにセットします。

上のパネルに、全部で7つのボタンがありますが、酸味、苦味など風味を3段階、そして、味の濃さを3段階、3 x 3 で9通りの味が選べます。また、「Dual Temp」というボタンもありまして、これは(抽出過程で温度を高温から低温に変化させる)2段階温度抽出の機能のボタンとなります。本日はこちらで淹れさせていただきます。

和泉 スタートを押すと、自動で抽出が始まります。上のシリンダーの水がだんだんと無くなっていき、スチームに変わっていきます。

中山 この水はどこで温めているのですか?

和泉 背面に内蔵されている、特殊なヒーターで温めています。

中山 最初は驚いたんですけど、温めるスピードが速いんですよね。サイフォンは通常温めるのに時間が掛かるんです。これは、タイガーさんの技術の賜物だと思います。そしてこの温まったスチームがコーヒーに当たって、蒸らしをしている訳ですね。

和泉 そうですね。そしてここにお湯が溜まって、浸漬の工程に入ります。

中山 このように最初に蒸らすと豆が開くんです。開くからこそ、コーヒー豆の成分がよりよく出てくる。そして、この豆の開いていく過程が見えるのが楽しいですよね。

和泉 そこはこだわった部分ですね。
さて、いま蒸気を使ってかくはんをしています。通常のサイフォンコーヒーでは木べらが使われると思いますが、とても難しいテクニックのいる作業ですので、ここも自動でやってくれます。

中山 そして最後の噴水の打ち上げですね。

和泉 これもかなりこだわった所です。
はい、これでコーヒー完成です。カップを置いて、最後は自分でレバーを引いて注ぐところまで楽しんでください。

中山 ここまでで3〜4分でしょうか。朝の支度をしているだけでもうできちゃうわけですから、いいですね。

サイフォニスタの開発中に立ちはだかる「壁」

中山 サイフォンを使う人間としては、あのサイフォンの動きを機械制御なんてできないと思っていました。サイフォニスタでそれを実現するのには困難があったんじゃないかなと思います。

和泉 大事にしていたのは、サイフォンコーヒーをできるだけ簡単に淹れられるようにすることだったのですが、適切なかくはんだったり、一番良いタイミングで分離やろ過をさせたり、その制御がとても難しかったです。
一番難しかったのは、やはり、噴き上げさせるところ。密閉度やタイミングが難しくて。
でも、今までのコーヒーメーカーとは違う楽しみ方を皆様に提供したく、こだわったところです。開発チームは非常に頑張ってくれて、それを実現してくれました。言葉で言うと簡単に聞こえるかもしれませんが、味を確認しながら何度も何度も作ってはやり直しを繰り返し、やっとたどり着いた感じです。

中山 コーヒーって、プロが淹れるものでも、正解の味を誰かが決めてくれる訳じゃないんですよね。だからとても開発でも試行錯誤されたかと思います。

タイガー独自の機能とこだわり

中山 タイガーさんとして、この製品についておすすめポイントは他にもありますか?

和泉 「スペシャルティコーヒー」をおいしく、そしてご家庭で簡単に手軽に使って淹れていただくということを考えながら開発をしてまいりました。従来のサイフォン式はお手入れが大変なイメージがありますが、このシリンダーパーツは、食器洗い乾燥機に対応しています。また、いろいろな味を簡単に試せるように、9通りの味を出せるようにしました。
それに加えて1個、スペシャルなボタン。先ほど試していただいた、この「Dual Temp」という機能は、2段階温度抽出といいまして、最初に高温で抽出を行い、後半に低温に下げます。そうすることで、抽出の後半に出てしまいがちな雑味を抑えながら、豆本来の味を引き出すことができます。これは、タイガー魔法瓶の熱制御技術を使っており、スペシャルティコーヒーの展示会に出展したときにプロの方も大絶賛でした。

逆にサイフォンのプロから見て、サイフォニスタのここが良いというポイントはありますか?

中山 まず、ファーストインプレッションとしては、「すごい」の一言でした。この味を家庭で簡単に、しかも自動で再現できるのはやはり驚きましたね。実際に使っていくと、「どうなるの?どうなるの?」って、ワクワクする気持ちがふくらんでいく。そういう気持ちのが(サイフォニスタに)残っていたのは、サイフォンを広める立場としてすごく嬉しかったですね。実際に豆を蒸らしていて、かくはんが起きて、抽出されたコーヒーが出来上がるっていう、その過程のワクワク感や楽しさをしっかり工程の中に残して、そのフィナーレが噴水のように噴き上がってくる。とてもすごいと思いました。

「金属フィルター」「上下逆のシリンダー」がポイント

中山 あとは、プロじゃないと気づかないかもしれませんが、フレンチプレスで代表される金属フィルターが採用されていることです。金属(ステンレス)フィルターは、コーヒーのオイルが他のフィルターに比べてあまりこし取られないので、 香気成分がコーヒーに多く反映されるのが特長なんですね。要は、香り立ちがさらに良くなるんです。ただ、金属フィルターというのは、ある程度コーヒーの微粉が入ったりします。

このサイフォニスタは、抽出を終えてコーヒーが下から上がっていく。本来のサイフォンと違って、動きが上下逆になっている。つまり、金属フィルターで発生した微粉が、上下逆さまであることによって、あまりコーヒーの液体の方に入ってこない、そしてコーヒーの上に浮くオイルも楽しめるところが、 サイフォンとフレンチプレスの良いとこ取りをしているような構造になっていて、すごいと思ったんです。

中山 もう1点は先程伺いました、2段階温度抽出で温度を途中で変えられること。これは、サイフォンのプロの競技会の決勝戦では、途中で温度を変えるためにお水を入れる小技があったりしますが、このコントロール技術って難しいんですよ。

それをこのサイフォニスタに搭載することで、抽出の後半に出てくる雑味を抑え、トータル的にバランスの取れた味に仕上げることができる。それをボタン一つで簡単にできてしまうというサイフォニスタは、さすが高い熱制御技術を持っているタイガーさんらしいコーヒーメーカーだなって思いますね。

和泉 ありがとうございます。肝心の味についてはいかがでしょうか?ぜひ率直にお聞かせいただければ嬉しいです。

中山 やっぱりすごくおいしいなって思いました。そうでなければ、このアンバサダーを引き受けることにならなかったと思います。サイフォンコーヒーの特徴である華やかな香り、そしてスッキリとした味わいが、やはり同じように再現できています。これがご家庭で、そして簡単に楽しめるというのは、サイフォニスタの本当に素晴らしいところだと思います。

和泉 本日はありがとうございました。このサイフォニスタを完成するまでに、いろんな苦労をしてきましたけれども、中山さんに評価していただけるようなものが世に出せたことは非常にうれしく思っております。今後ともサイフォンコーヒー、そしてサイフォニスタを一緒に世の中に広めていければと思っておりますので、これからもよろしくお願いいたします。

中山 ありがとうございました。ぜひ、よろしくお願いいたします。

​*コメントには個人の見解も含まれております。