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【タイガー魔法瓶 × JAXAベンチャー】医療輸送分野の「ラストワンマイル」課題を解決。電源不要で最大11日以上の保冷を実現する「BAMBOO SHELLter」開発秘話

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2025年2月、JAXAベンチャーである株式会社ツインカプセラから、同社最初の商品として”超”断熱保冷容器「BAMBOO SHELLter(バンブーシェルター)」がリリースされました。同社の宇宙関連技術とタイガー魔法瓶の真空断熱技術が結実した小型で高性能な保冷容器で、医薬品や検体等の輸送における温度逸脱のリスクやコスト、手間の課題を解決。電源不要で、マイナス70℃から体温に近い温度まで、様々な温度帯での長期間(最大11日以上)の保冷を可能にします。開発を推進した株式会社ツインカプセラCEO・宮崎和宏さんと、タイガー魔法瓶株式会社 ソリューショングループ 商品企画第2チーム マネージャーの南村紀史が、両社の出会いから「BAMBOO SHELLter」開発・商品化までを振り返りました。

JAXAでの回収カプセルプロジェクトの成功を機に協力体制を構築

南村:ツインカプセラを立ち上げられた経緯をお聞かせください。

宮崎:2018年に国際宇宙ステーション(ISS)から宇宙実験サンプルを保冷状態で地上に回収するJAXAの小型回収カプセルプロジェクトのメンバーとして、真空二重断熱保冷容器の開発に携わりました。このプロジェクトでチャレンジした日本初のISSからの保冷回収の技術実証が非常にうまくいきまして、その断熱保冷技術を、地上での課題解決にも活かしたいと考え、2021年に、JAXAの技術を活用して事業を行うJAXAベンチャーとして株式会社ツインカプセラを立ち上げました。

南村:当社との「BAMBOO SHELLter」の共同開発は、その時のプロジェクトがきっかけだったと伺っています。もともとタイガー魔法瓶にはどのような印象をお持ちでしたか?

宮崎:回収カプセルプロジェクトにおいて、JAXAのエンジニアとして、回収カプセル用の断熱保冷容器の研究開発でご協力頂けないか相談させて頂きました。その際、短期間かつリスクのあるミッションであったにもかかわらず「やりましょう」と迅速にご判断をいただき、期限内に試作品を完成させてくださいました。この経緯については、JAXAのウェブサイトでも記事(※)が掲載されているのですが、このこともあり、技術開発へのチャレンジに前向きな企業という印象を持っておりました。

※JAXAの回収カプセルプロジェクトにおけるタイガー魔法瓶との連携については、こちらもご覧ください。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 機関誌 [ジャクサス] P12、P13

南村:確かに難しいミッションでしたが、宇宙に関わる開発はワクワクしました。技術的にも精神的にも、良いブレイクスルーになったと感じています。今回ご協力させていただいた真空断熱技術については、どのように感じられていますか?

宮崎:真空断熱は断熱材の中でも特に高性能ですし、薄くても高い断熱性能を発揮するため空間的な効率の高い技術だと理解しております。空間的な制約が厳しかった回収カプセルのときと同様ですが、当社がBAMBOO SHELLterの開発で目指した「小型で高性能な断熱保冷容器」の実現には、無くてはならない技術でした。

南村:ありがとうございます。株式会社ツインカプセラを創業された後、御社とは業務提携をさせていただきました。ツインカプセラ設立後に、改めてタイガー魔法瓶にお声がけいただいたのはなぜでしょうか。

宮崎:ツインカプセラは、JAXAの技術を継承しているとはいえ、新しい商品を開発するためには、さらなる技術的チャレンジが必要でしたので、高い技術力と実績をお持ちのタイガー魔法瓶さんのお力をお借りしたいと考えました。また、JAXAでご一緒した時の信頼関係もあり、安心してお願いできました。

タイガー魔法瓶の技術を活かしてコスト・手間・保冷性能の課題を克服

南村:バイオメディカル分野の保冷輸送をとりまく市場には、現在どのような課題があるのでしょうか。

宮崎:検体や医薬品、生体組織などの保冷輸送では、安全性や検査の信頼性などを担保するために温度維持が非常に重要です。温度逸脱が発生すると、経済的な損失が発生するだけでなく、プライスレスとも言える貴重な検体や生体組織等が損なわれる可能性もあります。確実な保冷輸送を行うためには、少量のものを輸送したい場合であっても、大きな保冷ボックスと大量の保冷剤を用い、専門業者にチャーター便で輸送してもらうなどが必要となり、高額なコストがかかってしまいます。

他方、宅配便などの安価な輸送サービスの場合はどうしても温度逸脱のリスクが伴いますので、少量の保冷輸送において、確実と低コストは両立できないという点を課題として捉えています。

南村:医薬品の輸送に関しては、新型コロナウイルスのワクチンでも話題になりましたよね。こうした課題を解決するのが、「BAMBOO SHELLter」というわけですが、改めて性能や特徴を教えていただけますでしょうか。

宮崎:「小型かつ高性能」というのが最大の特徴です。一般的に保冷ボックスの保冷性能はサイズに比例しますので、小型で超高性能な保冷容器というのは、これまでになかったものと言えます。小型にも関わらず高い保冷性能というのを実現できたのは、断熱容器に関して高い技術と経験をお持ちのタイガー魔法瓶さんと連携させて頂けたことが大きかったです。

血液などを輸送する場合には、例えば、18〜25℃、2〜8℃など、要求される温度範囲で安定的かつ確実に温度を維持する必要があります。「BAMBOO SHELLter」の中に入れる保冷剤を変えることで要求に合わせて温度を設定をするのですが、小型容器の場合は少量の保冷剤で長期間、温度を維持する必要がありますので、保冷剤を長持ちさせるために断熱性能が高いことは非常に重要なわけです。その意味では、わずか400g程度の保冷剤で数日間の保冷ができるというのは、かなり優れた特長だと考えています。

再生医療などの現場では細胞を生きたまま運びたいというニーズがありますが、それに対応して、体温に近い温度に設定することもできますし、保冷剤の代りにドライアイスを使用することで-70℃以下で「細胞を凍結させた状態で輸送したい」というニーズに応えることもできます。

2025年2月にリリースされた「BAMBOO SHELLter」

「BAMBOO SHELLter」のラインアップは、「Sサイズ」「Mサイズ」「ダブル断熱」の3種類があります。主要な温度帯で、Sサイズは約3日以上、Mサイズは約4日以上、ダブル断熱は約7日以上の保冷が可能です。

輸送する検体が1本~数本の場合はSサイズを利用される方が多く、10本前後をまとめて輸送する場合にはMサイズを利用されることが多いです。ダブル断熱はSサイズと容積が同じですが、1週間以上(温度帯により最大11日以上)の保冷が可能なので、通関での遅延リスクが高い国際輸送に適しています。

南村:海外への輸送も可能になるのですね。コンパクトで確実な保冷輸送ができれば、コールドチェーンで課題になっているラストワンマイル問題も解決できそうですね。

宮崎:はい、そのとおりです。この容器が小型の冷蔵庫・冷凍庫のようなものですので、この容器に入れてしまえば、輸送のための保冷設備や保冷車は必要なく、常温便で発送元から配送先まで通しで保冷輸送ができます。離島の場合は、保冷機能のない小型ドローンでの輸送区間があっても良いわけです。その意味では、ラストワンマイルだけでなく、発送側のいわゆる「ファーストマイル」も含めてカバーできると言えます。

南村:なるほど。それはすごいですね。開発にあたって工夫された点はありますか?

宮崎です:ポイントは、「BAMBOO SHELLter」という名前のとおりの竹のような細長い形状です。断熱容器は、断熱されていない口の部分から熱が入ってきますので、開口部の面積を小さくするために細い形状にしています。また、細長い容器の一番奥に保冷対象物を収納し、入口側に保冷剤を配置することで、長時間の温度維持を実現しています。形状の工夫に加え、真空断熱自体もタイガー魔法瓶さんの技術によりクオリティが高いものとなっています。

開発の際は、タイガー魔法瓶さんからさまざまなアドバイスをいただきましたし、こちらから色々と技術的に難しい要求もさせて頂きましたが、タイガー魔法瓶さんが培われてきた技術とノウハウのおかげで、私たちのアイデアが具現化できたと思っています。

南村:ありがとうございます。一方で、苦労された点はありますか?

宮崎:「小型」と「高性能」という相反する特長をいかに両立させるかという点ですね。宅配便による保冷輸送で遠隔地も含めた全国をカバーするため、各温度帯で「最低3日」というのを保冷性能の開発目標に設定していました。

サイズを大きくすれば保冷時間を延ばせますが、それでは「小型かつ高性能」というコンセプトに反します。ですので、サイズは、宅配便の最低料金区分である60サイズ(縦横高さの合計が60cm以下)に納まることを目指しました。結果としてSサイズの容器は、60サイズにピッタリ収めることができ、保冷能力を輸送コストで割った「保冷のコストパフォーマンス」が最大になる設計となっています。

南村:開発工程ではさまざまなシミュレーションをされていると思いますが、シミュレーションと実測データのギャップは現時点ではなくなっていますか?

宮崎:はい、JAXAでの開発経験からもシミュレーション技術の基盤はありましたが、ツインカプセラとしても断熱保冷容器に特化したシミュレーション技術を確立しており、現在では、数値解析による性能予測ができています。新しい断熱保冷容器を開発する際には、最終的には試作と実験で性能を検証する必要がありますが、試作と試験を何度も繰り返すと開発コストがかかってしまいます。ですので、設計段階で、シミュレーションによって確度の高い性能予測ができることは非常に重要です。今回のBAMBOO SHELLterの開発でも、そのシミュレーション技術を使って、短期間で目標性能を達成する製品を開発することができました。

バイオメディカル分野での活用に期待。海外展開も視野に

南村:「BAMBOO SHELLter」をどういった領域で活用していただきたいですか?

宮崎:製薬会社、検査センター、大学等の研究機関など、バイオメディカルの分野で役立てていただきたいです。また、基礎研究、臨床試験、臨床など、さまざまなフェーズで幅広く使っていただけると考えています。現在は日本国内が中心ですが、今後は海外や、国を跨ぐ国際輸送にも利用を拡大していきたいです。例えば、アジアやアフリカなど気温の高い地域、特に、コールドチェーンの整備が十分でない地域で強いニーズがあると考えています。

南村:確かに、保冷するために電源を使用しないので、世界中どこでも使用できますよね。実際に利用された方の声などは届いていますか?

宮崎:例えば、血液の検査会社の方からは「「BAMBOO SHELLter」で輸送されてきた検体は温度が安定しているので、品質のよい検査ができてありがたい」といったコメント、また、海外の共同研究先までの輸送に使用されている研究者の方からは「通関で時間がかかり心配したが問題なく温度が維持されていた」というコメントを届いています。私たちが想定していた価値がしっかりお客様にも届いていて、とてもうれしいです。

南村:これから医療輸送分野における高性能な容器の導入を検討している方にメッセージをいただけますでしょうか。

宮崎:「BAMBOO SHELLter」はこれまでにない製品で、まだ広く認知されていないので、すぐに導入頂くのは難しいかもしれません。しかし、一度使っていただくと気に入って頂けて、追加での調達や他の方をご紹介していただけることが多いです。お試し利用のための無償貸出も行っていますので、まずは、その凄さを実感していただきたいですね。

南村:それでは最後に、今後のビジョンや社会で果たしたい役割についてお聞かせください。

宮崎:JAXAでの研究開発を出発点として、たくさんの方のご支援を得て目指していた商品化を実現することができました。バイオメディカル分野では、多くの企業や研究機関、医療機関で新しい価値を生み出す研究活動、そして、健康や命を守る医療活動を行われていますが、私達も、弊社の製品とサービスにより、それらの取組を支えることで貢献していきたいです。また、「BAMBOO SHELLter」をさらに改良したいという構想がありますので、今後もぜひ、タイガー魔法瓶さんにご協力いただきたいです。

南村:当社も一般家庭向けの調理家電や魔法瓶だけでなく、BtoBの産業機器分野にも積極的にチャレンジしていきたいと考えています。「BAMBOO SHELLter」はその中核的な商品となると思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

株式会社ツインカプセラ  ウェブサイト 

https://twincapsula.co.jp/product/bamboo_shellter.html

タイガー魔法瓶株式会社 産業機器ソリューションページ

https://www.tiger-corporation.com/ja/jpn/for-business

【プロフィール】

宮崎 和宏(みやざき かずひろ)

株式会社ツインカプセラ 代表取締役/CEO
JAXAのHTV搭載小型回収カプセルプロジェクトのメンバーとして、真空二重断熱保冷容器の開発・ペイロードインターフェース・サンプル輸送等を担当。JAXA職員が主体となって取り組むことが難しい宇宙技術の地上用途での事業化に関し、開発した技術が世の中に役立つ姿を自らの手で実現したいとの想いから、2021年に株式会社ツインカプセラを設立。

南村 紀史(みなみむら のりひと)

タイガー魔法瓶株式会社 ソリューショングループ 商品企画第2チーム マネージャー
タイガー魔法瓶NEXT100のチャレンジとして、これまで培ってきた「真空断熱技術」「熱コントロール技術」を応用進化させて、BtoB領域・産業機器領域での事業拡大に取り組んでいる。

商品・サービス情報

ステンレス製真空断熱容器

ステンレス製真空断熱容器は、温度変化を最小限に抑えるために、二重構造の間に真空層を設けた容器です。
この構造により、熱伝導や熱対流を効果的に抑制し、高い断熱性能を実現します。真空断熱容器は、保温・保冷が必要なさまざまな用途に活用されています。

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