TIGER

100th Anniversary タイガー魔法瓶 100年のあゆみ

「温もり」
描き続ける

創立100周年記念 特別対談

ドーンデザイン研究所
代表/デザイナー

水戸岡 鋭治

タイガー魔法瓶株式会社
代表取締役社長

菊池 嘉聡

列車や公共施設、商業空間のデザイナーとして夢あふれる作品を生み出し続ける水戸岡鋭治氏。
タイガー魔法瓶と水戸岡先生のつながりは深く、1985年から10年以上にわたって総合カタログを中心に、
精密な描写と多彩な色づかいで商品を鮮やかに演出してくださいました。
今回、100周年社史の表紙イラスト制作にあたって水戸岡先生のデザイン哲学についてお話を伺うとともに、
次の100年へ向けて貴重なメッセージをいただきました。

水戸岡さんのデザインには
バックボーンがある。

ブレない姿勢をお手本にしていきたい。

水戸岡さんのデザインにはバックボーンがある。

出会いと積み重ねが
導いた100周年

水戸岡

タイガーさんとの出会いは、僕がまだイラストレーターをしていた1985年までさかのぼります。時代を代表する俳優を常に起用し、新しい生活スタイルを提案している会社というイメージがその頃からありました。食事やくつろぎ、リビングやダイニング、アウトドアといったシーンから、抹茶やケーキ、ピザ、鉄瓶などあらゆる絵を10年以上かけて、ほんとうにたくさん描きましたね。

菊池

当時のスローガンである「いいものは、いい生活ともだち。」をテーマに、弊社の商品群を演出してくださいました。新しい技法を取り入れられていますし、現代でもそのまま使えるイラストばかりです。

水戸岡

70年史のために描いたのがこの線画イラストです。今回、100周年ということで菊池社長からお話をいただき、このイラストに色をつけて描き足していきました。

  • 70周年イラスト zoom

    70周年イラスト

  • 100周年イラスト zoom

    100周年イラスト

菊池

ちょっとした遊び心がありますよね。蟻の巣や、モグラが顔をのぞかせています。

水戸岡

虎を隠し絵で入れたかったのです。後から描き足すことができますので、次の100年も使えますよ。

菊池

一つひとつが細かく描き込まれていてとても精緻です。

水戸岡

壁紙の柄ひとつとっても、僕たちが今日(こんにち)使っているパターンがすべて入っています。タイガーさんとの仕事で培ったことが役に立ち、その後どんな仕事の依頼がきても対応できるようになったのです。インテリアデザイン、建築デザイン、テキスタイルデザイン、大道具や小道具、木や花といったものを表現できるようになりました。そういう基礎ができて、僕はデザインの世界に進むことになります。列車や建築、船、ユニフォーム、サインやシンボルマーク、ロゴタイプまでデザインをトータルに勉強させてもらったことが大きいですね。

菊池

ずっと描いてもらっていますが、根底に流れているものは変わっていないように見受けられるのです。その年々、カタログごとにいろいろなリクエストもあったでしょうが、軸がブレない。作品の緻密さが何より素晴らしい。いつどこに使用しても耐えられることを想定して描いていただいたのではないかと考えています。

「楽しい」をいかに表現するか

「楽しい」をいかに表現するか
水戸岡

「タイガーが当時イメージしたシーンは今も生きているのではないか、この先も生きていくのだ」という菊池社長の想いをお聞きして、徹底して仕上げたのがこの絵です。生活シーンから大道具、小道具まですべて正確なスケールで本物を描き込んでいます。

菊池

100周年にあたって、この先150年、200年と続いていくなかで、過去に求めてきたものと今後求めていくものをどのように表現すべきかということで、イラストを依頼したところ水戸岡さんに快くお引受けいただきました。

水戸岡

現在は列車や建築のデザインを主に手がけていますので、かつてのようにイラストレーターとして役目が果たせるだろうかと不安もありました。30年、40年かけて培ってきたものを全力で描き込もうと、ある吹っ切りができてここまで描けたのです。

菊池

弊社のDNAとして脈々と受け継がれる「温もり」を伝えたいとリクエストさせていただきました。商品が使われるのはご家庭であり、そこにご家族がいらっしゃる。道具と団らんをつなぐ「温もり」を、どのような空気感で伝えればいいのか。そういう意味で、水戸岡さんの技術が最高にマッチしました。

水戸岡

時代が変わっても、人が心地いいとか楽しいと感じることはそれほど変わらないですね。「幸せな団らん」というのは人が中心ですから、いかに幸せで楽しそうな人を描き込むか。僕がデザインするときのテーマは「楽しい」ということ。笑顔の生まれるデザインが一番だと考えています。それにふさわしい色、形、素材、使い勝手、生活、空間、時間を組み合わせて丁寧に一つひとつ、生活の道具はこれでなくてはならないというふうに、最高の舞台をつくるのが僕たちデザイナーの仕事です。人はその舞台にふさわしい演技をしようとして役者になっていくのですね。お父さん、お母さん、子どもそれぞれが自らを演じることで成長していく。そんな舞台をどうやってつくりあげるか。

菊池

弊社の商品にとって、まさにご家庭が舞台です。

水戸岡

いつもそばにあるのが生活の道具ですよね。人をサポートするボトルやポットを手間暇かけてつくるのは価値ある仕事です。100年も続けてこられて、それをさらに進化させて、人々が喜ぶものを提供しようという難しい目標に挑戦されている。これからもっともっと大きな役割を果たすことになるでしょう。

タイガーさんの足元には
DNAがある。

そこを掘り下げることで、その先に通じる道が拓ける。

タイガーさんの足元にはDNAがある。

「らしさ」を感じ取ってもらうために

水戸岡

楽しい、豊かな生活のためには物事を総合的にとらえることが必要です。社会や環境、住宅、生活、年齢といったあらゆる要素を総合的に判断し、それを創造的にデザインして、計画的に生産するという仕事をされているのでしょうから。そうして初めてその時代、空間、世代に役に立つものができます。

菊池

魔法瓶の製造・販売からスタートしたという歴史がベースにあって、今でも単品思考で「機能やデザイン、特徴はどうあるべきか」という点にフォーカスしがちです。ステンレスのボトルはこうあるべき、ケトルはこうあるべきだと。それをどうやって束ねた力にしていくか。 個々の商品の魅力を高めることはもちろん重要ですが、それ以上にブランド全体の価値を高めていく必要があると考えています。次の100年に向けてそれをどうやってつくりあげていくか。単品として成立しながら、群としてテーブルの上に並べると「タイガーらしい」と汲み取っていただけるようなトータルデザインをしていかなければなりません。

水戸岡

ロゴがなくても商品を見れば、「これはタイガーさんがつくったものじゃないか」と理解してもらえるのがブランドです。ロゴがあろうがなかろうが、考え方が形に表れているブランドづくりがこれからますます重要になってきます。

菊池

異彩を放つ固有のブランドであれるかどうかが以前にも増して大きな課題になってきています。単品や商品群、さらに企業の生い立ちや使命まで含めて形にすることは簡単ではない。しかし着実に積み上げていくことで、結果的に「タイガーらしさが感じられる」という片鱗が残る。そういう根底に流れるものを感じ取ってもらえることを目指しています。水戸岡さんのデザインには軸が1本通っている。ブレないことをお手本として見習っていきたいですね。

水戸岡

利便性と経済性を追求するとすべて工場化、工業製品化されていきます。豊かな文化性がつくり出すものが経済活動であり、経済活動を補うために人が参加しているわけではありません。手間隙のかかる文化性を入れて、いかに継承していくか。タイガーさんが歩んだ100年の足元にはしっかりとしたDNAがあり、考え方がある。そこを掘り下げることで、その先に通じる道が拓けるのではないでしょうか。

この先のストーリーをどう描くか

この先のストーリーをどう描くか
菊池

商品を生み出すそもそもの理由や、なぜこういうデザインや機能でリリースされようとしているのか。そういうストーリーも加えて説明しなければ受け入れてもらえない時代になってきたと感じています。背景にあるニーズも含めた、顧客の声に応えられるストーリーをどうやって描いていくか。うまく表現する方法はあるでしょうか。

水戸岡

早いことよりは遅いこと、大きいことよりは小さいこと、強いことよりは弱いこと、明快なことよりは曖昧なこと、美しいことよりは正しいことのほうが重要になってきています。これまでとまるっきり逆ですね。タイガーさんはSDGsに貢献する商品づくりをされていますが、環境問題がまさしくそう。美しいといっても説明できないけれど、正しいことなら説明できるのです。

菊池

たしかに価値観が大きく変わろうとしています。

水戸岡

今日、本社新オフィス棟を見学させてもらったのですが、社員一人ひとりが自立して、学習しないと使い切れないほどの空間が用意されていますよね。いい商品をデザインすることと、いい会社をデザインすることは同じです。次の時代に向かって企業の新しい形をつくっていきたいという菊池社長の志を感じました。
リーダーが先頭をどれだけの力で走るか。それと同時に、社員一人ひとりがいかにきちんと生活しているかが問われると思うのです。そうでなければ生活をサポートする道具は生まれてこないですよ。豊かなコミュニケーションを育む舞台ができたことで、社員の意識のレベルが上がり、自然とストーリーのある新商品が生まれてくるような環境が整ったのではないでしょうか。

菊池

水戸岡さんのデザインに対する哲学だけでなく、社会や会社がどうあるべきかについて重要なメッセージを聞かせていただきました。これからも社会に「温もり」をお届けできるものづくりに真摯に取り組んでいきます。本日はどうもありがとうございました。

Eiji
Mitooka

水戸岡 鋭治

水戸岡 鋭治 みとおか えいじ

デザイナー
1947(昭和22)年生まれ。
STUDIO SILVIOCOPPOLA(イタリアミラノ)を経て、1972(昭和47)年、東京にドーンデザイン研究所設立。
クルーズトレイン「ななつ星」などJR九州の車両、駅舎などを多数デザインし、多くの賞を受賞している。

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